身内が亡くなった場合、様々な手続が必要になりますが、中でも相続関係は非常に面倒なことが多いです。
相続関係の手続きの一番の基本、大本になるのが、相続人は誰と誰がいて、その関係(配偶者、親子など)はどうなっているのか、ということです。
本人たちには当然の内容でも、相続手続きの相手先にその内容と証拠を示す必要があるわけですが、それを一目で分かるような形で証明してくれるのが、「法定相続情報証明制度」です。
相続に関わったことの無い方には馴染みのない制度ですし、聞いたことが無いという人も多いと思いますが、市役所に死亡関係の手続きに行くとこの制度を案内されることもありますし、ある意味非常に便利な制度だと思います。
制度のしくみや書き方、申請の仕方などの詳細については、多くの情報がありますので、今回は制度の概要と、実際にやってみてどうだったか、なぜこのような制度があるのかその利点と逆に注意すべき点などを中心に、説明したいと思います。
法制相続情報証明制度の概要
法制相続情報証明制度は、相続関係を一覧に表した図(「法定相続情報一覧図」と言います)について、登記官(窓口は法務局)がその内容に間違いが無いということを証明してくれる制度です。
「法制相続情報一覧図」自体は、申請者側で作成する必要がありますが、これに必要書類(戸籍謄本など)を添付して申請すれば、その一覧図の内容が正しい旨の認証を付した写しを無料で交付してくれます。
例えば、故人の銀行口座を清算するために手続きをしようと思うと、本人が本当に死亡しているのか、手続きに来た人は相続人で間違いないのか、他に相続人はいるのか、などを明らかにすることが必要になります。
これを示すために除籍謄本や戸籍謄本などを提出することを求められますが、この制度を使えば、「法制相続情報一覧図」1枚で事足ります。
特に、複数の銀行がある場合などは、それぞれに戸籍謄本などを用意するのは非常に面倒ですが、法定相続情報一覧図なら何枚でも無料で交付してもらえます。
申請の方法
申出人(申請できる人)
申請できるのは、相続人(故人から相続を受ける人)です。この制度では申出人と言います。
代理人による申請も可能で、親族などのほか、弁護士、司法書士、税理士、行政書士などに頼むこともできます。お金を払っても良いという人は、これら専門家に頼むのが簡単ですが、私は何事も経験と思い自分でやりました。
相続人の範囲については、こちらの「よくあるご質問」の「家族のうち、誰が相続人となるのですか?」を見ていただくのが分かりやすいですし、ネット上でも解説がたくさんあります。
第二順位の人たちは、第一順位の相続人がいないときに限り相続人となります。第三順位の人たちも同じく、第一、第二順位の相続人がいないときに相続人となります。
必要書類
被相続人(故人)の戸籍謄本及び除籍謄本
出生から死亡までの連続したものが必要になります。
婚姻などによる異動だけでなく、制度改正に伴う改製前の戸籍なども必要です。
戸籍制度はコンピューター化などよる改正やそれ以前にも大きな改正があり、これらに伴う改製前の除籍謄本なども必要になってきます。
この手続きで一番面倒なのは、ここかも知れません。
相続人が誰かを確認するために必要なので、すべて揃ってない、漏れがあると追加で提出を求められます。
市役所等の窓口で相続に必要である旨を説明すれば、該当のものを揃えてくれます。
ただし、違う市町村に移動しているような場合は、遡って追いかけていく必要がありますし、遠方になると電話や郵便でのやり取りになる場合もあるので、手間がかかりますが仕方ありません。(「戸籍謄本等の広域交付制度」によってかなり楽になったと思います)
法制相続情報証明制度を利用するしないに関わらず、どのみち相続に関する手続きには必要になりますので、頑張って集めましょう。
ここで揃えておけば、あとは法定相続情報一覧図だけで大抵は事足ります。
戸籍謄本等の広域交付制度
戸籍法の改正により、平成6年3月から戸籍制度の利便性の向上がはかられましたが、その一つとして、最寄りの市町村窓口で遠隔地の戸籍謄本等の請求が可能となりました。しかも、複数自治体の分をまとめて請求できるので従来に比べるとかなり便利です。
ただし、兄弟姉妹や代理人では請求できない、一部対象外の戸籍もある、などの点は要注意です。詳しくは、法務省のHPなどをご覧ください。各自治体のHPでも案内しているようです。
被相続人(故人)の住民票の除票
最後の住所地(亡くなった時の住所地)の市役所等で交付してくれます。
相続人の戸籍謄本又は抄本
相続人全員の戸籍謄本又は抄本が必要です。
実際に相続人となる人の分だけです。例えば第一順位の相続人がいれば、第二順位に該当する人たちの分までは必要ありません。
また、相続人の配偶者などは相続とは関係が無い(相続に関係するのは、故人の配偶者以外は、血の繋がりのある者だけです)ので、家族全員が記載された謄本でなくとも、必要な者だけの抄本でも構わないのですが、私は面倒なので、家族全員の分をつけました。
申出人の氏名、住所が確認できる書類
運転免許証やマイナンバーカードの写し、住民票記載事項証明書(いわゆる住民票の写し)などです。
法務局の説明には、運転免許証やマイナンバーカードはコピーに原本証明をして添付するように記載されていたりしますが、窓口に直接行く場合は現物を持っていけば向こうでコピーしてくれます。(私の時はそうしてくれました)
相続人の住民票記載事項証明書(いわゆる住民票の写し)
「法定相続情報一覧図」に相続人の住所を記載しない場合は必要ありません。つまり任意です。
ですが、この後の相続手続きの相手先によって住所が必要になる場合もあると思うので、「法定相続情報一覧図」には相続人の住所を記載し、住民票の写しも添付した方が良いと思います。
代理人が申請する場合
当然、委任状などが必要になりますが、誰に委任するかによって必要書類が異なりますので、法務局の該当ページの説明をご覧ください。
法制相続情報一覧図の作成
相続人の関係などを一覧にした文書を「法定相続情報一覧図」と言いますが、こんな文書です。
この一覧図自体は申出人側で作成する必要があります。
法務局で作成してくれるわけではありません。
申出人の方で作成した「法定相続情報一覧図」の内容について、添付書類(戸籍謄本等)に照らし合わせて確認し、間違いが無ければ、登記官が認証文を付した写しを交付してくれる、そんな仕組みです。
法務局のサイトに様々なパターンごとの記載例と様式がありますので、これを利用しても良いと思います。
様式はエクセルで作成されていて、該当部分に必要な事項(氏名や生年月日など)を入力すれば、それで完成するようになっていますが、レイアウトの融通が利かない(やってやれないことが無いですが面倒)なので、一から自分で作成しても良いと思います。
「明瞭に判読」できれば、手書きでも構わないとなっていますので、字のきれいな方ならそれでも良いと思います。
なお、作成した「法定相続情報一覧図」の原本は法務局に保管されますので、「A4の丈夫な白紙」を使用するように、となっていますが、普通の真っ白なコピー用紙で大丈夫です。
申出書の作成
作成した一覧図、戸籍謄本などの添付書類に加えて、申出書を作成します。いわゆる申請書です。
これも法務局のサイト(中段あたりです)に様式と記載例がありますので、これを参考にすれば良いです。
申請手続き
認証するのは登記官ですが、申請は登記所(法務局)に行います。
上で説明した書類がそろったら、登記所(法務局)の窓口に提出します。
ただし、提出先の登記所(法務局)は、どこでも良いわけではありません。
被相続人(故人)の本籍地、または最後の住所地、申出人の住所地、または被相続人の不動産の所在地、これらを管轄する法務局のいずれか、つまり4つのうちのいずれか、ということになります。
窓口に出向くか、郵送で送っても構いません。
ただ、内容の不備や添付書類の不足があるとその旨指摘されますので、その辺のやりとりを考えると、できれば実際に出向いて直接説明してもらった方が分かりやすいと思います。
昼間時間が取れない、近くに窓口がない、などの場合は仕方ありませんが。
ちなみに、不動産登記の関係で窓口に行く場合は予約を求められますが、法定相続情報の関係は予約不要でした。 念のため、実際に出向く場合は、該当の法務局に電話で確認された方が良いとは思いますが。
添付書類や内容に不備が無ければ、認証付きの「法定相続情報一覧図」の写しは、後日交付してくれます。 窓口に取りに行っても良いし、郵送でも送ってくれます(郵送料、返信用封筒が必要)。
込み具合にもよると思いますが、1週間はかからなかったと思います。
添付した戸籍謄本なども一緒に返却してくれます。
法定相続情報証明制度のメリット
冒頭に書いたように、相続にかかわる手続きでは、被相続人(故人)の死亡の確認や相続人はだれとだれで、その関係性はどうなっているのか、などの確認に、戸籍謄本や除籍謄本等の書類を必ず求められます。
相続に関わる手続きは関係先が複数あるのが普通ですから、束になった戸籍謄本等の書類をその都度提出するのは煩わしいですが、それが「法定相続情報一覧図」があれば、それ1枚で済みます。
法務局の手続き(不動産登記)はもちろん、年金関係でも、金融機関でも大抵は「相続情報一覧図」で大丈夫なはずです。
少なくとも、私自身は、相続関係の手続きで、一覧図ではダメと言われたことはありません。
ほとんどの金融機関では提出した書類は、戸籍謄本等も含めて、返却をしてくれますので、戸籍謄本等ワンセットを使いまわして手続きを進めることも可能ですが、郵送で手続きする場合は返却してもらうまでには一定の期間がかかります(窓口で手続きする場合は、大抵はその場でコピーしてすぐに返してくれますが、手続き自体に相当時間がかかります)ので、特に関係する金融機関がいくつもある場合などは、「法定相続情報一覧図」を複数枚用意しておく方がはるかに簡単です。
注意点
記載内容は正確に
当たり前と言えば当たり前ですが、一覧図の記載は、住民票や戸籍の記載と一字一句違いの無いように記載しましょう。
例えば、住所の表記は、運転免許証でもかなり省略した書き方(何丁目何番地何号などのところ)になっていたりしますが、この辺りを適当にしていると指摘されます。
私自身、住所の記載について、免許証の記載がこうだからこれで良いだろうと書いて行ったら、住民票の記載と違うということで、訂正を求められました。(一覧図の差し替えになります)
必要枚数は余裕をもって
認証済みの一覧図は、何枚でも無料で交付してもらえます。
追加で交付してもらうことも可能ですが、そのたびに登記所(法務局)とやり取りする必要があるので、最初に余裕をもって交付してもらった方が良いです。
私は、最初、予定している提出先を数えて、その分だけ申請したのですが、登記所の方から「本当にそれで大丈夫ですか」と言われて増やしたのですが、あとから分かった銀行口座などがあり、余分にもらっておいて良かったと思いました。
最後に
一見するとややこしそうな手続きですが、添付書類さえ揃っていれば、あとは記載内容に仮に間違いがあっても、登記所の方で丁寧に教えてくれます(私の時はそうでした)。
ですので、よほど書類作成が苦手と言う方でなければ大丈夫だと思います。
もちろん、お金を払っても面倒なことは減らしたいという方は、司法書士、行政書士、税理士などに依頼しても良いと思います。
いずれにしても、法定相続一覧図は、一度作っておけば、あとあと非常に便利なので、作っておくことをお勧めします。特に金融機関が複数あるような場合は役立ちます。
もちろん、銀行口座も一つだけ、年金の手続きもほとんど必要ない、というような場合には、わざわざ手間をかけて作る必要はないかも知れませんが。
私の場合はとても助かりました。
コメント